日本の植生図を見るための Web ビューワー、「シームレス植生図」を作って公開した。
https://vg67.map.nonylene.net/
植生図の楽しさ
植生図というのは、それぞれの土地の植生(生えている植物の集団)を分類して地図に表示したもの。
日本では環境省の生物多様性センターが植生の調査を行っており、例えば森であれば「ブナ-ミズナラ群落」や「カラマツ植林」、水田であれば「水田雑草群落」、市街地であれば「市街地」や「緑の多い住宅地」などの分類がなされている。
植生はその土地の風景を決定づけるかなり大きな要素だと思う。森か草原かといったレベルに限らない話で、北海道や長野の高原部は白樺が多くてスッキリとした雰囲気だし、沖縄では亜熱帯感のある濃い植物が多くてコントラストの高い風景になる。針葉樹と広葉樹でも明るさがぜんぜん違ったりする(ミズナラ林とかすき)し、秋や冬では常緑樹か落葉樹かで大きく変わる。
そういった身近な自然の違いは気候とともに街なかの雰囲気にも影響をあたえている、気がする。
植生図を見ると、そんな今いる風景を構成するのはどんな植物なのか、また同じようなものはどこで見れるのか、といったことを知ることができる。
山地だけでなく、平地に目を向けても楽しい。どこまで市街地が広がっていて、どこに公園があり、稲作・畑作が行われているのか、都市の特徴が植生図を見るとよく分かる。
植生図のデータとビューワー
マップを開くと分かるとおり、植生調査はとても緻密に行われていて、特に直近進行している第6回・第7回調査はデータの使い勝手も良い。縮尺が1/25000にアップし、さらに凡例を全国で統一して6桁のコードにまとめてくれている。
一方、これを Web で気軽に見る手段は環境省公式の 自然環境調査 Web-GIS か、エコリスが配布しているエコリス地図タイルのビューワー くらいに限られる。どちらも基本的な植生情報の閲覧はできる(エコリスはサクサクしていて結構良い!)が、凡例をフィルタして分布を見たいし、生物多様性センターによる丁寧な解説 も表示したいし…、などなど自分のほしい機能が欠けていた *1 。
GIS やジオテクっぽいことを昔からやってみたかったこともあり、自分のほしい機能を備えた植生図ビューワーを作ることにした。
作る
ジオ周りの技術については全くの初心者(QGIS すら知らなかった!)なので、色々調べながら進めていった。全部書くと記事が終わらないので概要だけ書くと、以下のようなことをやっている。
- 全国の植生データ(Shapefile)を生物多様性センターからダウンロード
- 扱いやすくするため geojson に変換・データの整形(丸め込みや、不都合なデータの整形など)
- スケールごとに適した植生図 geojson データの生成(グループ化、小さなポリゴンのマージなど)
- スケールごとに適した凡例ラベルデータの生成
- tippecanoe を使ったベクトル地図タイルへの変換
- Shapefile のスタイルファイル(lyr)から凡例ごとの背景色を抽出・加工
- 生物多様性センターのサイトから凡例の解説を取得
- Mapbox を使った地図の表示、フロントエンドの作成
各種整形はライブラリ豊富な Python、フロントは Vanilla な JS で書いている *2。さまざまなスケールで見やすく使いやすい植生図にするためのデータの処理・パラメータ調整と Mapbox を使ったフロントの作成 *3 が特に大変で、楽しかった。
完成
ということで完成したのが以下。産総研の「シームレス地質図」をリスペクトして「シームレス植生図」という名前にした*4。
https://vg67.map.nonylene.net/
植生をクリックすると同じ植生の地域が強調表示され、生物多様性センターの解説が表示される。
自然植生(人為的でない植生)のみを表示して、原生な風景がどこにあるかを見ることもできる。
さらに細かく、凡例の検索・絞り込みもできる。
衛星写真と見比べることもできる。
実は色を変えられる。
Mapbox の力によって 3D の表示もできる…!
…すごくない?
なかなか良いものができたと思うので、ぜひ植生図の面白さに浸かってほしい。
各スクリーンショットのクレジット
1/2.5万植生図GISデータ(環境省生物多様性センター) 、「統一凡例(植生区分・大区分一覧表)」 (環境省生物多様性センター)を加工して作成 / © Mapbox / © OpenStreetMap / © Maxar Improve this map